東村アキコさん、実はすごかった…(&東村作品私的ベスト3+1の紹介)
東村アキコさんの漫画が好きです。
元々、学生の頃「Cookie」という漫画雑誌を愛読していて、そこで東村さんの初連載作「きせかえユカちゃん」と出会って以来、断続的に読んでいます。
本棚から東村作品探したんだけどこの2作品しか出てこない…リビングの本棚に入りきらなくなり夫部屋に退避させてたので、Amazonで売られてしまったのかも…
さまざまなヒット作を飛ばし複数連載を抱えている東村さんなのですが、「雪花の虎」を読み、そして東村アキコさんのドキュメンタリーを見て「この人ほんとすごいな…」と改めて衝撃を受けたので、今日は東村アキコさんの話を。
※こちらが雪花の虎。東村アキコさん初の歴史漫画。
上杉謙信女性説をベースとしたフィクションなんですが、ストーリー展開と謙信(景虎)のキャラクターがものすごく魅力的です。コマ割りも映画のようで、一気に「読まされ」ます。
スポンサードリンク
「かくかくしかじか」と「漫勉」。東村アキコさんのバックグラウンド
「かくかくしかじか」でさらけ出される過去と覚悟
私、東村さんの漫画が好きと言いつつ、実は、東村作品からしばらく離れている時期がありました。
テンパリストのヒット以降、どちらかというとシュール&ドタバタギャグ路線のほうに行っていた印象があって、 ちょっと読んでて疲れる…みたいなことを感じていたのです。
が。
また東村作品を読み始めたきっかけがありました。
それは、昨年マンガ大賞を受賞した「かくかくしかじか」。
東村アキコさんの高校〜大学卒業あたりを中心に描いた自伝的作品なのですが、これがすごい。
東村さんて絵が雑…
なんかチャラいし…
と思っていたんですが、その印象が一変しました。
高校時代に出会った恩師に思い切りしごかれ、ひたすら絵を描き続けていた東村さんは、念願の美大に入学後はモラトリアムの謳歌に忙しくなり、絵を描かなくなってしまう…
そして、自分を応援してくれている恩師には後ろめたさから距離をおいてしまう。
恩師に嘘をつきながらも、最終的には自分の夢だった漫画家への道を進んでいく。
まるで恩師を踏み台にするか見捨てるかのようだと、自分でも思いながら。
そんなストーリーなんですが、学生の頃にありがちな後悔、後ろめたさとか見栄とか恥ずかしさとか、自分の未来に対して感傷的になってブレブレになってしまうところとか、そういうカッコ悪い、できれば自分の黒歴史にしておきたいようなことを割と正直に、包み隠さず描いてしまっている作品です。
その表現力や覚悟もすごいなと思ったのですが、東村さんの中にそんな葛藤や努力の時期があったことが、意外なような、でもすっと腑に落ちるようなそういう思いになりました。
「漫勉」を見て。膨大な「量」をこなした上で達した境地
そして、NHKのドキュメンタリー「漫勉」を見ました。
「MONSTER」や「20世紀少年」の浦沢直樹さんがさまざまな漫画家の仕事風景を見ながら対談する番組。
この東村アキコ回が衝撃でした。
描くのがめちゃくちゃ速い。(ちょっと絵を描いたことがある人ならわかると思うんですが、あの上手さであの速さは驚異的です)
プロ意識の強さ。(原稿を落とさないためにとにかく主線から仕上げるという一見アーティストっぽくない優先順位付け。(でも結局ディテールもこだわった末に人海戦術で時間内にこなしてしまうというパワー…))
そして、かくかくしかじかで書かれているように、東村さんには、実は、美大受験で培われた絵の基礎力とおそらく漫画の膨大な読書量という、強固なベースがある。
いやこの人…天才とかじゃなくて、ものすごい「量」を消化した上で行き着いた達人、という感じがしました…
また、対談の中では、東村さんのストーリーの表現力(東村さんの共感を得る力とか、ギャグとシリアスのバランス感とか)や、女性作家であるということ、についても触れられていました。
対談で語られている通り、東村さんの作品の特徴の一つは「感情やエピソードの描写が優れているので、読んだ時に鮮やかに体験できる(自分の記憶から掘り起こして再体験できる)」ことと「みんなのあるあるをうまく拾って端的に描く」ということだと私も思います。これが共感性の高さを生んでいるんだろうなと。
その辺りの天性のセンスや考えが、量で作ったベースに加わって、数々の作品を生み出しているのだなと改めて唸らされました。*1
うわー。チャラいおばさん*2だと思ってた私恥ずかしい。すいません。足元にも及びません…
見る目が変わりました。
私が好きな東村アキコ作品(ベスト3+番外)
ここから私的東村アキコ作品ベスト3を書いていきます。
第三位:雪花の虎
東村さんの持ち味のシリアスさとドタバタギャグとのバランスが絶妙な一作だと思います。
上杉謙信女性説をベースとしているので、歴史ものとしては邪道かもしれませんが、フィクションとしてかなり面白い。
そして、絵が上手い(パースが狂ってない)。基礎を持っていて、書き続けてるからこそなんだろうなと思わされます。
毎話冒頭に歴史的背景の説明があるんですが、「歴史苦手」「難しい話めんどい」という人向けにポイントだけまとめてさくっと飛ばし読みできるような構成になってるのも、うまいな〜と。
東村作品からは切り離せない「女性であること」ということとも真正面から取っ組み合っていて、「オンナが書いてます〜〜〜」という空気感もまたよし。
第二位:ママはテンパリスト
当時の東村アキコさんの新作ということで、妊娠を考える前に買って、「育児って大変だなーーww」と爆笑してたんですが、
「ww」じゃねえよこのとおりだよ!!
とあの頃の自分の頭を叩きたくなる名作です。
今の私に響くのはこれですかね…
泣ける…泣けるわ…
(※私の娘の現在→なぜうちの娘は林家パー子ばりのダサピンク女子なのか - 単角子宮で二児の母(予定))
他にも、「なんで寝かしつけにこんなに時間がかかるのか」「卒乳の大変さ」「子供の謎のプライド」などなど、育児あるあるネタだらけです。
ストレス解消にもオススメ。
番外編:白い約束
東村アキコさんのデビュー作を収録した短編集。
表題作の「白い約束」が、ザ・少女漫画ですごく好きなんです…
好きな人に思いを伝えられないまま離れてしまい、その人のことが忘れられない。
そういう学生の頃あったようななかったような、甘くてほろ苦い恋を描いた作品です。
オチが「んなことあるわけねえだろ」という落とし方(脚注に飛ばしときます*3)なんですが、それも含めて少女漫画。ファンタジー。
(東村さんが初期の頃少女漫画でやりたかったことはこういうことなんだろうな〜っていう…)
巻末に収録されているデビュー作も味わい深いです。
絵は雑で読みにくいんですが、気持ちの機微をうまく描き上げる東村さんの原点が見られると思います。
第一位:かくかくしかじか
上でも紹介しましたが、これはもう本当に読んで欲しいです(押し付け)。
若いって痛い。痛くて切ない。
なんであの時気づかないんだろう、なんでできなかったんだろう。自分に本気で親身になってくれた人になにも返せなかった自分。
そういう切なさをぐいぐい引っ張り出してくる名作です。
若かった頃の自分ホントバカでゴメン!!と同時に、頑張ることってムダにならないよなと思わせてくれます。
日高先生の「描け」は、私にとっては読み返すその時によって違う動詞になり、私を励ましてくれます。
「前に進め」と。
はー。これからまた「かくかくしかじか」読み返してみようと思います。
追記)2017/1ドラマ化。30女を突き刺す「東京タラレバ娘」感想
2017年1月期にドラマ化の「東京タラレバ娘」の感想記事はこちらです。
鬼才東村アキコの面目躍如、という感じの恐ろしい漫画です。ホラーだよホラー。ホラーだけど落とし所はしっかり乙女心をフォローしている心憎さ。大人のための「少女漫画」です。