目の前に次々出される、あの時の感情と感触のリアルさ:「きみは赤ちゃん」出産編の感想
こちらの記事を拝読し、なんだか急に気になってしまった、川上未映子さんの「きみは赤ちゃん」。今回はその感想です。
この本は本当にヤバかったです。
この「きみは赤ちゃん」、題名だけは知っていたし、川上未映子さんが写真家・蜷川実花さん責任編集のママムック本に登場していたり、日経DUALに連載をお持ちだったりと、時々川上さんの産後に触れる文章を読む機会はあったのだけれど、読む機会に恵まれていませんでした。
ただ、先の記事で触れられているいわゆる産後クライシス的な内容や、引用されている文章に惹かれて、ようやく手に取りました。
読んだ結果…(まだ正確には、出産編を読み終え、産後編の途中なのですが)
この本はまじでヤバイ。(二回目)
※産後編の感想も書きました。
増幅されていく黒い感情と、まぶしいほどにあふれるひかりと:「きみは赤ちゃん」産後編の感想 - 単角子宮で二児の母(予定)
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よみがえるあの日々
何がヤバイって、この本に共通して流れている、妊娠、出産、産後におけるさまざまな「当事者たちが共感してしまうもの」をぐわっとわしづかみにつかんできて、それを生々しいまま、ほれ、って見せる、著者のその手腕がものすごい。
(私が、たまたま似たような経験を持っているのかもしれませんが…)
目の前にリアルに突き出される、妊娠から産後の著者をとりまく様々な感情と感触(物理的な痛みとかの描写を含め)。
私も経験したあの頃が、そして妊娠中の今の心の中や目に見える風景が、そこにくっきり重ね合わされて、震えました。
自分をとりまくさまざまなダークなものたち
仕事にかんすることならなんでもないことなのに 、自分の妊娠があっというまに自分の関係のない人たちの知るところになる 、というのは 、本当に本当に心細い体験だった 。もし 、うまく育たなければ 、そのことも報告しなければならないだろうし 、それはおそらく 、いまよりもっと 、たいへんな気持ちになることだろうと思うと 、さらに心細くなるのだった 。
ダ ークだった 。目の色も 、態度も 、このころのわたしは毎日ものすごくダ ークだったと思う 。 「あなたはいいだろうよ 。決めたことを決めたままに生きるのは気持ちがいいだろうし 、むしろ達成感すらあるかもね 。体もぜんぜん変化しないしね 」などとわたしは毎日毎日 、頭のなかでつぶやき 、何者でもないような生きものになってしまっている状態の自分自身をどう理解してよいのか 、途方に暮れていたのだった。
夫との関係の変化のはじまり
たとえば。あるとき、わたしが現在妊娠何週の状態であるのか知っているのか、ときいてみたら、知らなかった。まずそれにかちんときた。25週やで、とわたしはいちおう伝えてみた。そして、後日、妊娠25週目のおなかの赤ちゃんがどんな状態か、知ってる? ときいてみた。たとえば映像情報でも、文字情報でも、おなかの赤ちゃんがいまどれくらい成長しているのかとか、そういうこと知ってる? と。でも、あべちゃんは知らなかった。わたしはそれに対して急激に怒りがこみあげた。というのも、そういうのはネットで検索すればいくらでも知ることができる情報であり、そしてあべちゃんは一日に28時間くらいネットにつながっているからで、なにをそんなにみているのか見当もつかないし、目が疲れないのかとか、玉石混淆すぎる情報にまみれてしんどくならないのかとか、そばでみているだけでもまじでぐったりするのだけれど、とにかく、あれだけ日々ネットにつながっていてときにはしょうもない情報を読んだりしているはずなのに、その時間はたんまりあるはずなのに、われわれの一大事であるはずの妊娠、ひいてはわたしのおなかの赤ちゃんについてただの一度も検索をしたことがない、ということに、わたしはまじで腹が立ったのである。これはたんに興味がないだけの証拠じゃないか!
あとでこの夜の箇所をみると 「帝王切開まじやばい 」とだけ記されていて 、それ以降の 9日間 、完全に白紙になっているのだった
*1:我が家には二つあり、アラフォー二人と5歳児の三人で争奪戦です