ドラマ化!30女に突き刺さるけどやめられない、ホラーな少女漫画「東京タラレバ娘」
今月からドラマ化される「東京タラレバ娘」の原作を一気読みしたので感想を書いていきます。
最近めっきりマンガを読まなくなりましたが、時々、お気に入りの作家さんのマンガを買って夜中にKindleで読んでいます。
東村アキコさんも大好きな作家さんの一人*1。
なんですが、「東京タラレバ娘」はこれまで読んだことがありませんでした。
なぜなら…
怖いから。
です。
- ずっと読むのが怖かった、タラレバ娘
- やっぱりホラーでした。
- 恋愛市場からはもう降ろされてたの…?
- 自分の感性はもう遅れているの?仕事もうまくいかない…
- 独身女性だけじゃない、既婚、子持ち女性にも向けられる銃
- ホラーの中から、女子心を救っていく絶妙なバランス
- 読者世代に突き刺さる小ネタの数々
- 東村アキコさんはなぜこの漫画を描いたのか
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ずっと読むのが怖かった、タラレバ娘
東村アキコさんの漫画の特徴として、
「感情や体験の再現性が高く、共感させる力が強い」
というのがあると思います。
東村さんの作品は、読んでいて、
「これわかるー!!!」
「だよねー」
「うわっ、私もこれ思ったことある」
というのがかなり多いのです。
その共感させるセンスが彼女の漫画の核の一つです*2。
さて、 「タラレバ娘」の冒頭は、こんな始まり方。
タラレバばかり言っていたらこんな歳になってしまった。
…え、無理でしょ?ちょっともうこれ無理でしょ?なんか聞いたことあるこれ。いやこれもうこの後見たくないものが続いていく予感しかしないでしょ?
実際、あとがきでも、作者東村さんの友人のコメントとして、
「この漫画はホラー」というコメントがあります。
私ホラー嫌いなんですよ。
ホラーも嫌いだし、本とかドラマで嫌な気分になるの嫌なんですよ。感情がマイナスに揺さぶられるのが嫌なので、こういうのを読んだり観たりしたくないチキンなんですよ。
子供の頃は、ドラえもんで、のび太がひどい目に遭いそうになるとチャンネル変えてましたよ。
でも。
やっぱり気になる。東村さんの作品だし、評判も高いし、気になる。
ドラマ化されるのをいいタイミングと思って、読むことにしました。
やっぱりホラーでした。
私たちお酒とおいしいものが大好き。気心知れた女の子で集まって飲むのが大好き。東京の女子会だからおしゃれなお店?ううん、ツマミがうまくて酔えればいいんです。コジャレてなくていいんです。別に雰囲気なんてうちらに何かくれるわけじゃないし。
東京の象徴は東京タワーです。スカイツリー?何それ?高さが高すぎるし。新しすぎてロマンもないわ。
カラオケ行けば小室メドレー、ドラマと言えば海外ドラマ。そういえば最近のJ-POP聞いてないな、最近流行ってるバンドの名前聞いても、何それおいしいの?
「タラレバ娘」では、そんなアラサー(アラサーとありますが、個人的には、76世代、アラフォーのほうが近い感覚です)女子3人、脚本家の倫子、ネイリストの香、父親の居酒屋で働く小雪、それぞれの恋愛を中心とした人生模様が描かれます。
タラレバ娘の前半の内容は、そんな30女性にとって、まさにホラーとしか言いようがない内容です。
まるでデジャブ。こんな怖い目にあった気がする*3、ううん、あう気がする。怖いのに先が気になって読み進めずにはいられない。
そして予想通り、いや予想を斜め行く勢いで容赦なく厳しい現実がどんどん3人を襲ってくる展開。
もー、絶対うまくいかないよ、酷い目に遭うって!と思いながら読んでいたらそれを悪い方向に予想を裏切る展開。ぐええ(吐血)。
ああこの先のび太はジャイアンにコテンパンにやられ、先生やお母さんにこっぴどく叱られる…チャンネル変えなきゃ!!
※この先一部ネタバレありです
恋愛市場からはもう降ろされてたの…?
まずは、アラサー女子を取り巻く恋愛の厳しさ。
主人公倫子が20代の頃に「自分がフッた」元彼。仕事で今も会うけれど、なんだかぎこちない、でも妙に優しい。大した用もないのにマメに事務所に来てくれる。…あれ?もしかしたら私のことをまだ好きなの…?
そこへ、もしかしたらこれが最後のチャンスなのではないか?という不安に煽られ…
意を決して行動する主人公。
めかしこんで、彼とのデートへ。そして彼からの告白を待つのですが…
うまく行ったかって?
結末はこうです。
元彼が好きだったのは、なんと主人公の下で働いている若い見習いの女の子でした!!主人公に気がある風でマメに事務所に来ていたのはその子にアピールしたかったからでした!!以上!!解散!!!
…壮大な勘違いということで撃沈。自分より若い女の子に持っていかれ、3人でヤケ酒をあおるという展開です。
うわーイタタタタ。
恥ずかしい!!死にたい!!!
自分は常に男を待つ側、いい男との出会いが運ばれてくる側。回転寿司のように出会いが巡ってくると思っていたけれど、実は自分たちが回転寿司のように皿に乗って一分一秒年を取っていき、未来へ運ばれていく。気づかないうちに、周りに出会える男なんていない世界へと…。
そんな描写とともに、三十半ばにさしかかろうとしている自分たちは、恋愛市場ではすでに売れ残りであることを、主人公たちは実感するのです…
えっと。
……ううん、いいの!恋愛がうまく行かなくったって。
30代の私には仕事があるもん!
この年まで仕事を頑張ってやってきたし自信がある。仕事は自分を裏切らない!
…そう思うでしょ?
そんなささやかな祈りも、東村さんは豪快にハンマーで打ち砕いてくれますよ。
自分の感性はもう遅れているの?仕事もうまくいかない…
主人公は売れっ子の脚本家で、若い見習いの女の子を従えてフリーランスとして働いているのですが、なんと、仕事までも若い子に取られてしまうのです。
若い見習いの女の子の感性が、自分の感性を追い抜いてしまっていた、いや、自分の感性が置いてきぼりになってしまっていたということを痛感させられるという残酷な流れ。
恋愛のみならず、仕事までも若い女子に取られていってしまう…
わーーーー
死ぬ。
死んじゃうよ。
恋も仕事も、お前はお呼びじゃないなんて言われたら、もう、死んじゃうよ。立ち上がれないよ。
主人公倫子はこのようないわゆる王道、普通の恋愛、仕事でつまずいてしまう姿が描かれていきますが、主人公の友人である香、小雪にも同じようにさまざまな茨の道が待ち構えます。元彼の二番手、不倫と、ある意味倫子よりもドロドロの、恋愛を急ぐ独身女性がハマってしまうかもしれない罠です。
リアルすぎて怖い。怖いよう…
独身女性だけじゃない、既婚、子持ち女性にも向けられる銃
ちなみに、東村さんがこの漫画で描いているのは、実は「独身女性」だけではないのです。全方位に対して銃をぶっ放しています。
私がゾクッとしたのが3巻で語られる、
「女は結婚すればセコンドに回る」「旦那さんや子供を応援してサポートしながら生きていく」
という話。
結婚経験があり、お子さんがいる東村アキコさんならではの描写だと思います。
こえー。ほんとこえーよ東村さん。ごめんなさい。なんとなくこの人は怒らせたくない。
ホラーの中から、女子心を救っていく絶妙なバランス
そんな女性にとっては怖い描写ばかりなのですが、もちろんそれだけではありません。
ところどころ、女子心をくすぐる描写があります。
そうそう、女子はショコラ、チョコレートが大好きです。
時々自分のために買うご褒美ショコラ、コンビニで買っておいてデスクに忍ばせておくチョコレート、子供を寝かしつけた後の楽しみに食べるチョコレート…
仕事に疲れた時、恋に泣いた時、育児に疲れた時…立ち止まってしまうその時に、甘いチョコレートはいつでも女子の味方なのです!
また、5巻あたりから、少しずつ主人公たちタラレバ娘の人生に光が差してきます。
ありとあらゆるところから逃げて迷走してどうにもならなくなって、でも自分自身でいることからはやめられない。
その時、小さなチャンスが降ってくる。今までバカにしていたような小さなチャンス。それが気づきになる、新しいきっかけになる。
これ以上はネタバレになるので詳しくは書けませんが…
また、最新巻や雑誌での最新話を読む限り、主人公の恋愛の落としどころはかなり少女漫画的な、乙女心をくすぐるものになりそうです。
(特に最新巻の7巻(東京タラレバ娘(7) (KC KISS))では、少女漫画の王道的展開というか、少女漫画らしい切なく胸キュンな、ひとつの種明かしがあります。「さすが少女漫画家…」と唸らされました)
とことん落としておいて最後に優しい希望で救ってあげるという、なんとも女子の心を知り尽くした展開。さすが鬼才、東村アキコ。
読者世代に突き刺さる小ネタの数々
鬼才といえば、読者世代に突き刺さる小ネタが満載なのもさすがのセンスだなと思います。
これ、20代は絶対出てこないでしょ↓
他にも、
「カラオケでは小室ファミリーが定番」
「好んで観るのはSATC*4のような海外恋愛ドラマ」
「東京の象徴は、スカイツリーより東京タワー」*5
などの価値観。
これ、読者世代というか…完全に今のアラフォー、いわゆる76世代の価値観*6でしょ?私も広い意味でこの世代なので、「うわ〜〜〜〜〜〜〜」と赤面してしまいます。
そう、このへんで止まってるの。時が止まっちゃってるの私。生きててすみません。
東村アキコさんはなぜこの漫画を描いたのか
共感力の女王、東村アキコの面目躍如ともいうべき「東京タラレバ娘」。なぜこの話を彼女は描いたのか?
1巻のあとがきにこんなコメントがあります。
そして、主人公の倫子、香、小雪のタラレバ娘に対して常に批判的で、それなのに主人公をさりげなく助けていくモデルのKEYが、何度もメッセージを送っています。
「タラレバ娘は、愚痴ってばかりで他力本願」
ということを。
東村アキコさんの自伝的意欲作「かくかくしかじか」がそうなのですが、もしかしたらこの漫画も、漫画という表現を通して「叱咤激励」をしたいのかな、と。
過去のダメだった自分をさらけ出したり、痛い表現をすることによって、「みんな頑張ろうよ!!」というメッセージを送りたいんじゃないかと。
少し前に炎上した「ヒモザイル」もそうだったのですが、わかりやすい表現でそれをやることで、いろんな人たちに、
「流されたり逃げたりするんじゃなくて、自分の足で踏ん張って、ちゃんと頑張ろうよ!!頑張ればできるから!!」
ということをいいたいのかもしれないな…と思います。
読むたびに、ドキッとさせられ、笑わされ、そして考えさせられてしまう東村アキコ。
やっぱりすごいです。
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第一巻から読むならこちら